呼吸器内科のすゝめ①

眼科を選び、目の不自由な人の視力を回復させた時は達成感があるだろう。循環器内科を選び心筋梗塞の治療をして命を救った患者からの感謝は医者冥利に尽きるはずだ。外科医を選んで難易度の高い手術をやりとげた時のアドレナリンはいかほどか。

どの科を選んだとしてもやりがいや面白さ、学問的興味はある。一方で食事制限を守らない糖尿病患者、酒を飲みまくる肝硬変、タバコを吸う肺疾患患者など医師の無力さ、つらさもどの科でもあるはずだ。

何人かの先生がXで最近書いておられたので、私の考える呼吸器内科の魅力について取り上げてみたい。

まず第一の魅力は需要が大きいことだ。患者数に比して専門医数が少ない。同じくメジャー内科とされる消化器、循環器、糖尿病と比較すると明らかである。東京など一部の都市部以外は供給が追い付いていない科と言える。要するに重宝されるのだ。当地域など、かなりの規模の急性期病院でも呼吸器内科はバイトの医師で賄っており、非常に困っているというところも多い。そこそこの待遇で常勤の誘いを受けたことも一度や二度ではない。仕事をする上で求められる、必要とされることは大変に重要なファクターだ。

疾患が多岐にわたる点も魅力となりうる。肺癌、間質性肺炎、気管支喘息、COPD、結核、肺炎など。さらに言うと集中治療や感染症、膠原病分野をサブスペシャリティとされている先生も多い。肺癌は全ての癌の中での死亡原因のトップであるし、クラスに何人かは喘息の子がいる計算である。COPDは日本でも死亡率の10位以内だし、世界では3位だ(少し古い知識かもしれない)。多岐にわたる疾患を見て、さらにその中で専門とする疾患を決めてもなお、患者が多いのである。

手技が程よくあることも好ましい。気管支鏡は基本的には呼吸器内科(と呼吸器外科)の手技であるし、胸腔ドレーン挿入も内科の中ではかなりダイナミックな手技だ。気管支鏡は非常に奥が深く、術者によってかなり診断率が変わってしまう。

ここまでは一般的によく言われることだ。以下は私見である。

・舐められにくい科である。

臓器別の専門を持たない総合診療や手技の少ない糖尿病内科や精神科、局所的な臓器の診療に当たることの多いマイナー科は舐められやすい。科に貴賤なし、とはよく言われるし、舐める方が間違っているのは明らかだが、実際は舐める不届き者はいる。呼吸と循環の破綻は即死につながるため、舐められにくい、リスペクトを得やすいというメリットがある。これは働きやすさに直結するだろう。

・緊急が少ないのに多いと思われがち。

舐められにくいことと同じかもしれないが、なぜか緊急が多いと他科からは思われがちである。緊急で呼ばれる疾患は多くはない。気胸は呼吸器外科が呼ばれる病院が多いし、気道異物など年に何度あるだろうか。そしてガチの呼吸不全でヤバいのなら呼吸器内科を呼んでいる暇はない。人間は3分呼吸が止まると死んでしまうからだ。

・(特に肺癌領域で)日進月歩の分野である。

私が医師免許を取ってからでも治療のガイドラインが変わる、パラダイムシフトが起きたところがたくさんある。一昔前なら手のなかった患者に治療選択肢を提示してあげられる点はよいところと考える。これは医学全体がそうかもしれないけれど。

・肺癌患者はなぜかいい人が多い

完全に私の感想でしかないかもしれないが、糖尿病気質、リウマチ気質などの言葉もある。肺癌気質もあるかもしれない。

激務にもハイポにも働けてどこでも比較的重宝される。需要の方が大きい呼吸器内科。これから科を選ぶ先生達にはおススメなのだが、どうだろうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました