医師一人の育成費には約1億円かかっている。国公立大学の医師の育成費はほとんど税金で支払われている(以前書いたように国公立大学医学部の学費は6年で350万円程度)。医師は滅私奉公して当たり前だ。美容にいって自由診療で大儲けするなどもってのほか。
上記もネット上でたまに議論される、医師の働き方論だ。これに反論してみたい。
まず一億円かかるというものはデマ。ざっくり大学の維持費や人件費などを学生数で割ったものらしいが、その大学は医学生以外も使う場合がほとんど。看護学部や薬学部、その他の学部も使っている。学生数で割るのならその学生たちも数に入れなくてはならない。さらに人件費。医学部の授業のほとんどは研究や臨床をやっている大学病院の医師が先生として行っている。この授業を行う医師の給料は大学病院から支払われているため、実質「定額使い放題」である。授業を担当するからその分給料上乗せとはならない。例えば大学医局の講師などは病棟や外来でも多くの場合主力の働き盛りだ。仕事の合間を縫って授業も行っている。彼らが稼ぐ診療報酬は大学の給料の何倍にもなる。一学年が大体100人の医学部で、その生徒を医師にするために100億円も税金がかかっていないのだ。人体解剖実習以外は座学と病棟実習が主体の医学部の授業でそこまでのお金はかからない。税金が大学の助成金として投入されている点は他の学部と何ら変わりない。
法学部を出た人間が皆法律関係の仕事をするわけではないし、経済学部や工学部も同様。大学時代に学んだことを仕事にしている人の方が少ない。数学や物理学などはそれを仕事にできる人は一部の天才のみ。考古学を学んだ人がそれをどう生業にするかなど私には全く想像もつかない。「あなたは税金を使って大学で数学を学んだのだから、それを社会に還元しなさい」という話は全く聞いたこともない。なぜか医学だけがそれを知らない一般人から医師としての貢献を求められる。
少し話は逸れるかもしれないが、自分は大学病院での勤務はこれで約5年半になる。うち内科認定医取得後は4年半で呼吸器専門医取得後は3年半、大学で勤務していることになる。大学病院からの給料は毎月20万円台だ。ボーナスや退職金もほぼなし、家賃補助などもない。専門医を20万円台でフルタイム働かせる職場は日本で大学病院のみ。アルバイトでその数倍の賃金を得て生活を成り立たせていることになる。市中病院の給料が80-100万円程度の手取りにボーナス、退職金、通勤手当など含まれていたことを考えるとこれは尋常ではない。
医師になってから十数年、払った税金や社会保障費、年金などを合わせるとすでに1億円近い。平均寿命まで生き切ればさらにその数倍は払うだろう。デマを吹聴して医師を叩く。これは自分より稼いでいる身近な人を叩きたいだけではないか。
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