私の知るヤバい患者とその家族③

男性の生涯未婚率は25%に届こうとしている。これはどういうことか。生涯未婚ということは基本的に子どもを持たないケースがほとんどだろう。パートナーも子もいないとなると、この男性がすごく長生きして、自分の生活が破綻した場合、経済的、物理的に面倒を見る人は誰なのだろうか。一つは兄弟だが、基本的に高齢者の兄弟は高齢者だ。中々難しい場合も多い。もう一つは兄弟の子、すなわち患者からみたら甥や姪だ。実臨床でもこのケースもある。しかし、おじやおばの面倒を本当に見る人がどれほどいるだろうか。自分の場合は相談にのる程度はするだろうが、おじやおばに身銭をきってお金は出したくないし、下の世話をするなど無理だ。ほとんどの人はそうではないだろうか。

ある80代の男性患者だ。天涯孤独で身内はおらず独居。認知症があり、少ない年金暮らしだった。自宅から搬送されてきて、偶然StageⅣの肺癌が発覚する。もちろん積極的な治療をするには至らず、療養先を検索することになる。ただ認知症もかなりあり、せん妄で患者は暴れてスタッフに暴力をふるう。医療従事者への暴力が度を超えた場合は認知症だろうが治療の途上だろうが退院させざるを得ない。それを説明して納得させる家族や責任者もいない。転院させようにも受け入れ先だって暴力をふるう患者はとってくれない。ただ「あなたは暴力があるから退院ですよ」と退院させても自宅まで帰ることもできない人だ。ちなみに暴力暴言がひどい患者は家族がいれば連れて帰ってもらう。はっきりいって軽い暴力暴言は日本全国の医療機関で泣き寝入りしているが、限度を超えればさすがに別だ。

上記の患者は一体どうするのが正解なのか。そのまま最初に見た病院がババ抜きで負けたとして最後まで見るべきなのか。自宅まで帰れないとわかっていても退院させるのか。しかるべき行政サービスをつけてその調整が済むまで暴力を医療従事者が我慢すべきなのか。警察の介入?。自分には正解がわからない。多くの場合は医療機関の泣き寝入りだ。今でも困るケースも多いが、今後は高齢化、未婚化がさらに進むのでこうしたケースは増えていくだろう。

もはや医療も医学もあまり関係なく、生活の場をどうするか、誰がどう面倒をみるのかといった調整がメインの業務という患者もいる。社会調整を専門にする科や職種も必要になるかもしれない。

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