医療はサービス業ではないという話

「父の死の際に担当医の対応が大変冷たく傷ついた」という旨のポストがバズっていた。他の先生が大いに反論していた。医療を提供する側と受ける側の認識の食い違いが大きいようだ。この点について考えてみたい。

まず身近なサービス業で言えば飲食店やホテル業はサービス業だ。食事や宿泊環境を提供し、客に気持ちよく過ごしてもらう、飲食店なら食事を楽しんでもらう。スタッフが愛想よく、はきはきと振る舞うことは集客にも、今いる客の満足度にもつながるだろう。「あそこの店員は感じが悪い」だとか、「あそこのスタッフは手際が悪い」だとかでそのサービスを利用しなくなる場合がある。一方で度を超えてマナーが悪い、ルールを守れないような客を拒否する自由もある。さらに客側は値段相応のサービスを求めている。牛丼チェーンで最高の接遇を求める客はいないし、高級ホテルでスタッフの対応が悪ければ文句も言いたくなる。

医療はどうだろうか。大前提として、人間同士の関わりなので、最低限の礼節やマナーは必須である。敬語を使うだとか、身だしなみを整えるだとかだ。ただ、温かい対応を求めて医療を受けるのは違うのではないか。疾患に対して適切な治療と説明が提供されていれば、もっとビジネスライクな対応でよいのではないか。「気持ちに寄り添って欲しい」というのならそうしたサービスはある。そして我々は自分の病院にきてしまったらホームレスだろうが、どれほど反社会的な人間であろうが治療する。件のポストは事実を淡々と伝え、キーパーソンでない人にはキーパーソンから病状説明を聞いてもらうというルールにのっとったようにしかみえないのである。もう少し上手くやれよとは正直感じたが。

さらに他のサービス業と医療の違いは客(医療の場合は患者)を拒否するハードルが医療の方が断然高いという点だ。あるレベルの暴力、暴言、セクハラなどだが、正直軽いものは見逃されており、そのまま医療を受け続けている。看護師の尻を触った、認知症の患者が暴れて手が出ている、暴言を吐きまくる患者などしょっちゅうだが、厳重注意のみで実際に診療拒否した患者は自分はいない。

そして最低でも7割は税金による負担で支払いがなされる。

患者やその家族は説明を受ける権利はあるが、全ての患者が満足するレベルの接遇を提供できるわけではないし、それほどの金額を払っているわけでも、医療者がもらっているわけでもない。患者も医療者もお互いに、大人に求められる礼節以上の接遇を求めることはやめましょう。

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