医学を選んだ君に問う

定期的に話題になる「医学を選んだ君に問う」という、偉い先生が書いた文章がある。

医学生へ向けた文章であり、要約すると以下の通りだ。

医学を選んだのは君の勝手だ。もしも医師になる理由がお金や社会的立場以外に見いだせないのならやめるか、あるいはダンテの神曲を読破しなさい。

医師はとにかく勉強勉強勉強だ。授業をさぼるなどありえない。医師になれば連日泊まり込みも辞さず仕事に打ち込むべきだ。たくさん患者を診て治す喜び以外にも、新しい発見をして、まだ見ぬ患者を救う喜びも味わってもらいたい。

私が一年生であった20年近く前にも大学の授業でこの文章を読まされた。当時はまだ希望に満ち溢れており、そんなものかと受け入れた。なんせ、当時は心臓外科医になって自分しかできない手術をしたいと思っていた自分だ。いい文章だなとさえ思った。

今は受け止め方が違う。医師だけが特別とは思えない。例えばバスの運転手もたくさんの人の命を広義には預かっている。消防士や警察官、看護師や薬剤師だってそうだ。もっと言えば飲食店だって命をつなぐ食を支えており、食中毒が起きれば死者がでることもある。銀行員の融資の有り無しで死ぬ人もいるだろう。文筆家が書いた一文に命を救われた人もいるだろう。たくさんの職業が命に関わっているのだ。医師だけではない。

医学部を選ぶ時に崇高な志があればよいが、そんな人はほとんどいない。そんなやつが医学部に入るな、医師になりたい人に譲れという意見もあるかもしれないが、そんなやつに入試で負けてしまう志はあまり意味がないと思う。成績がいいから、将来社会的経済的に安定しそうだからという理由で医学を選ぶことに、自分は全く違和感がない。最近ハマっている令和の虎をみていると学歴コンプや周りに凄いと思われたいから医学部へという人もいる。自分もかなりそういうところがある。ちなみにダンテの神曲は読破していない。

医師になり、科を決めて自分なりに働くと、あるいは研究に取り組むと、やりたいこと、やりがいがみえてきた。痛みをとってあげたり、食べられなかった人が食べられるようになったりして感謝された場合の喜びは大きい。「癌が小さくなっていますね、薬が効いています」と伝える時患者は例外なく嬉しそうだ。

18歳かそこらで、高い志や明確な目的など持つ必要はない。そんなことは普通の人にはできないと思う。やるべき勉強をしっかりやっていくだけで十分だ。医学部の場合は入試と進級、国家試験を突破することがやるべきことだ。そうして自分のやるべきことをこなしていくときっとやりがいや志もついてくる。

この文章を書いた先生は眼科のご高名な研究医だそうだ。素晴らしい研究を一生懸命されたのだろうが、重症患者のために連日泊まり込みで治療をする機会はそんなに多くはなかったのではないのだろうか。

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