医師が嫌われ始めている①

先日Twitter改めXで「医師、医療者の給料は下げるべき」とツイートした政治家がいた。私は医師なので医師の給料が下がっては困る。これについて反論していきたい。

どうも昨今は矢面に立つのは高齢者の延命行為だ。胸骨圧迫や人工呼吸器の使用、ECMOやPCPSだけでなく、中心静脈栄養や胃ろう、胃管からの栄養投与も場合によっては叩かれることがある。平均寿命を過ぎた高齢者に、明確な目的や先の展望もなく「長生きさせたいから」とこれらの行為をすることは大多数の非医療者同様、私も私の周りの医療者も反対だ。しかし「母を少しでも一秒でも長生きさせてください」という家族は少なくなく、それを断る術がない。いやあるのかもしれないが、途方もない労力と、その家族からのヘイトを買う。場合によっては訴えられる。90歳を超えた高齢者が誤嚥して亡くなったケースで遺族に訴えられ敗訴したケースもあるときく。自分の身を守るためにも患者側の希望があればそういった処置を行うのだ。そして大体は徒労に終わる。ブラックジャックの師匠ではないが、人が生き死にを決めるなんておこがましい思い上がりで、どこまでやっても耐用年数を過ぎた身体は死へ向かう。

この時点で一つの勘違いが非医療者には生じている。それは延命することで我々医療者が儲かっている、営利のために患者を苦痛の中延命させているのではないかということだ。これは大いなる勘違いで、少なくとも勤務医や看護師はこれらの処置をすることで一円ももらえるお金が増えることはない。人工呼吸器など使うと医師は病棟からの連絡や時間外の勤務、呼び出しは何倍にも増える。人工呼吸器がついた患者の看護の大変さなどは、そうでない患者の何倍にもなる(機械の確認、気道が詰まってないか、褥瘡予防、鎮静の評価などとても書ききれない)。「あなたは他の患者より何倍も大変な患者を担当してくれました。給料を増やします」とは決してならないのである。経営者だって大変だ。人工呼吸器管理やECMOを使うなら扱える医師を雇わなくてはならないし、機材もそろえなくてはならない。24時間その体制を維持しなくてはならないのである。まさに労多くして益少なし。そんなことをせず「寿命ですので、苦痛をとる治療をして、静かに見送りましょう」という方が身体的にも精神的にもはるかに楽である。「医療従事者または医療施設がお金目的に患者を延命している」ということは全く的外れである。個人的には給料が倍になるとしても日常的に人工呼吸器の患者やECMOの患者を診療することはしたくない。身がもたないからだ。倍どころか給料が増えることはないのだけれど。

もう一つはコロナ対応だ。ここ三年でコロナは非常に話題に上ることが多かった。「医療は社会の敵」というハッシュタグもあるくらいだ。「コロナで医療者が儲けている」といったことが未だに言われている。これは一部真実で、コロナ手当(昔からある結核などの感染症を診療している場合の危険手当)があったり、通常業務にプラスしてワクチン接種の業務があったりで多少は上がったが、この三年間で私の場合は20万円程度の増収だ。がっつりコロナ診療に従事した期間もあってこれだ。99%の医療者はせいぜい私と同程度かそれに毛が生えたようなものだ。一部PCR施設を作った先生や発熱外来を精力的にやって儲けた先生達はいる。それは医療者全体の1%にも満たないであろう。第一波やデルタ株の時の診療は本当に骨が折れた。デマも多かったが、「県外ナンバーの車が襲撃された」「県内感染者第一号の患者が誹謗中傷で自殺した」「コロナ患者が出た家に火をつけられた」などの話も出たくらいである。周りでも保育園や公園の使用を遠慮してほしいと言われた看護師もいたし、車中泊して診療にあたっていたスタッフもいた。今思うとめちゃくちゃである。そういった仕事をしてきてこの言われようは本当に納得がいかない。コロナに関しては過剰対策やお金のかけすぎだった点については議論の余地は大いにあると思うが、矛先が医療者に向かうことはおかしい。火事の消火に向かう消防士や高速道路の整備をする整備士が危険手当がつかないとおかしいとは思わないのだろうか。

長くなるので②に続く

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