天才はめったにいないなと思う。当たり前か。私の周りの同僚や仲のいい友人の多くは医師なので、広義にはまあ秀才と言える人が多い。しかし天才と言える人は一人もいない。知り合いで勉強において天才と言えた人は一人だけ思い当たる。センター試験はほとんど満点に近い点数で、東大の文一に進学し、現在は海外で仕事をしているらしい。一度みたら覚えてしまい、勉強に苦労している様子が全くなかった。怒りや悲しみなどの陰性感情をほとんど見たことがないことも印象的だ。東大医学部出身の医師も何人か知っているが、頭は確かにいいのだが、天才かといわれると疑問符がつく。研究分野で素晴らしい業績があっても、治療のパラダイムシフトを起こすほどではないことがほとんどだ。その分野での方向性やこれまでの概念を壊すほどの業績という高いハードルにすると、医師で天才などほぼいない。
「天才でなければ飯が食えない」世界である将棋の、藤井聡太名人はまぎれもなく天才である。異論がある人はほぼいないだろう。渡辺や、棋聖戦で一本入れた佐々木もまぎれもない天才である。しかし将棋ファンである私(2段だ)のような人でなければ、名前を知っているのは羽生さんと藤井名人くらいだろう。10人の棋士の名前が言える人はほとんどいないはずだ。天才がしのぎを削る世界において、少し寂しい話だとは思う。
サッカーはどうだろうか。私の出身県で一番上手かった同級生(私が一方的に顔と名前を知っているだけだ)は高卒でJ1下位のチームに入団した。そこで一試合も出場機会がなく、J2に移籍、そこでもあまり出場機会がなく、20代で引退した。私含め多くのサッカー経験者からすると素晴らしい才能に恵まれていたはずだが、とても天才とは言えない経歴だ。30代中盤でサッカーを楽しめている自分の方がむしろ良いサッカー人生を送っていると言えるかもしれない。育成年代で皆が口を揃えて天才、日本一とした小野伸二や宇佐美貴史ですら、日本代表の中心であったとは言いがたい。海外である程度やれれば年俸が億という世界だ、やはり才能と努力、運、全て兼ね備えていなくてはならない。中村俊介や本田圭佑はJ1のユースに上がれなかったらしい。中村や本田はまぎれもなく一定期間日本のエースであり、活躍するかどうかは中々事前にはわからない。
ミラクルレスターの立役者、ヴァーディはレスターが優勝する数年前はイングランド8部所属であったという。ヴァーディは天才だが、あれほどの才能も埋もれている場合があるのだ。
余談だが、私は麻雀が得意だった。「テンピンの雀荘が合法な限り、くいっぱぐれることはない」と思っており、「東風戦10000回で連帯率6割」という成績だった。意味がわかる人は相当な麻雀狂だ。麻雀で天才と思った人は1人しかおらず、手出し自摸切りは全て頭に入っており、理牌すると切り出した場所から手牌の構成を読んでしまうような人だった。職業は遊び人で麻雀とパチンコパチスロで年収1000万以上稼いでいた。40歳代で病気で死んでしまったが。
飯が食えるほどの才能とはなんと厳しい世界なのだろうか。サッカーも将棋も、例えば音楽や絵画など芸術の世界も、食えるほどではなかった、埋もれたままの才能はどれほどあるのだろうか。
それに比すと、勉強、医師免許はなんと恵まれているのだろうか。年約10000人も入学できる。受験のトップ10000人でもない、東大や他の難関大学にも分散されるからだ。ちょっとした秀才か、凡才が相当頑張る、これだけで入学できる。
医師免許を取り初期研修が終われば、普通に働けば年収1000万前後は固い。わざわざ安いところでトレーニングするとか、バイトの時間を研究や自己研鑽に充てるなど、自ら給料より何かを優先しない限りそうなのだ。
医師免許は定年も更新もなく、とってしまえばよほど悪いことをしないとなくならない(業務上過失致死などは医師免許停止はあってもはく奪には普通ならない)。
医師があぶれる時代、儲からない時代と言われるが、まだまだ医師免許は強いと思う。既存の職業で他にこれほど強い資格は何かあるのだろうか。自分の子には「やりたいことがなければ、医師の道はどうか」と勧めるだろう。
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