延命治療の定義とは

1つまたは複数の生命維持に必要な臓器が機能不全になった場合、緊急で行う治療。回復の見込みがなくなった場合に生命の維持のみを目的とした治療。辞書的な定義はこんなところだ。

命を延ばすという意味では小児の重症肺炎に対する抗菌薬治療もそうだし、中年の早期胃がんの手術も当てはまるが、これらを延命治療と考えている人はほぼいないだろう。糖尿病や高血圧の治療だって極論すると命を延ばすための治療だ。

本題の延命治療とはなんだろう。何度も書いている人工呼吸器や胸骨圧迫などはわかりやすい。基本的にはそうしなければ早晩呼吸や循環が破綻して死ぬ患者が対象だ。胃ろうや中心静脈栄養もわかりやすい。栄養を摂ることが自力でできなくなった人に対する代替の治療だ。

では透析はどうだろうか。腎機能のみ破綻しており、他の臓器は生命維持が可能だ。社会的にも透析を受けながら仕事をしている人だっている。しかし透析を止めると死んでしまう。IgA腎症やⅠ型糖尿病など若年で腎機能が廃絶しうる病気もある。明確に、外からの介入に生命維持を依存しているにも関わらず、あまり延命としての議論にはならない。透析にはかなりの額の医療費がかかっている。

私の専門領域である小細胞肺癌はどうだろうか。診断時には多くの場合StageⅣである。治療をしなければ数か月の寿命だ。標準治療を受ければ中央値は1‐2年の寿命である。根治する人はほとんどいない。5年生存率は0%にかなり近い。1‐2年の寿命を延ばすための標準治療は数千万円かかる。喫煙による自業自得といった部分もなくはない。

先天性心疾患の小児はどうだろうか。全く専門外であり、知識は乏しいのだが、重症の場合は手術やカテーテル、循環作動薬、臓器移植など治療は多岐にわたる。医療資源、医療費の消費は莫大だ。そしてそうした壮絶な治療の先にある期待寿命は重症であればあるほど長くはない。重症心身障碍児に対する治療など費用対効果が悪いからやめてしまえと公に言っている人は聞いたことがない。

延命治療の定義などできないのではないか。高齢者の患者やその家族への病状説明がすんなりいかないときに、看取りのガイドライン、食べられなくなった高齢者への対応のガイドラインが欲しいと思う。国や学会が大まかな方針を示してくれればよいのだが、医者の価値観や死生観、そして患者とその家族の死生観による他ないのが現状である。

「延命治療は自費でやれ」論がある。心情的には賛成の立場だ。穏やかに看取る予定で家族も納得し、患者も苦痛は少なそう。よい看取りになりそうだと思っていると遠方からこれまで世話もしたことのない娘が現れ「大事な母なんです。なぜやれることをすべてやらないのですか」と騒ぎ出す。こんな時は「そんなに大事なお母さまならどうぞ自費でやってください。医学的な適応はありません」と言いたい気持ちをぐっとこらえている。大人だから。しかし「こんな人に侵襲的な延命処置をしてはいけませんよ」ということは学会も国も言っていないのである。法律でも禁じられておらず、場合によっては訴えられる。患者側からの希望があればやるほかはないのである。

どこまでを延命治療とするか。その定義と医学的な介入をしないラインを早急に法律的に決めてもらいたい。

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