救急医療の限界

転職し、今まで勤めていた高次医療機関とは異なる病院で勤務している。ド田舎の急性期病院だ。医療の最先端とはかなり隔たりがあり、地域インフラの側面が非常に強い病院である。

今日で勤務は3日目。救急当番を当てられる時間帯もあった。

高齢化が進んだ地域であることもあるのかもしれないが、救急外来で対応したその全てがCOVID-19感染した人か、高齢者である。半分くらいは90歳オーバー。高齢化社会ここに極まれりということが救急外来にいるとよくわかる。

さらに言うと高齢者の独居がなんと多いことか。子世代の人は都会あるいは都会ではないまでも地方中枢都市に出てしまうのだろうか。90歳を超えた一人暮らしや老々介護があまりに多い。近所の人が救急要請したり、動けなくなり自分で救急要請する。日本全体の少子高齢化、それによる医療を含むインフラの破綻は目に見えている。

能登半島地震の際に、地方に住む人々は移住して、インフラを集約化すべきだとの意見が散見された。慣れ親しんだ土地から移住させることは(特に高齢者は)難しいだろうと自分は考えていたが、そうしないと維持できなくなるのではないか。

80歳代の女性。家族とは疎遠で連絡がつかない。心不全や不整脈で通院していたが、通院が億劫になり自己中断。利尿薬や降圧薬などの内服は全て自己判断で中止していた。薬を辞めてから3か月ほどたちいよいよ身体が苦しくなる。動けなくなる。唸り声を聞いた隣人が救急要請する。肺炎、心不全でそのまま入院する。一向に家族や親せきとは連絡がつかず、誰が説明責任や治療の意思決定をするのか、経済的な負担は誰が負うのか何も決まらない。我々医者は「治療費が払えるのかはっきりしないし、説明すべき家族とも連絡がつかない。だから治療しない、できない」とは言えない。ただ目の前の患者とその疾患に向き合うのみだ。こうしたケースは多いし、今後増えていくことは確実である。

自分にできることは、無駄な高次医療機関への搬送を防ぐこと、負担の大きな高次医療起案の防波堤になることだ。限られたリソースでできる医療を提供していくことだ。少子高齢化をどうにかすべきだとか、医療やインフラの集約化を、と叫ぶことではなく、粛々と役割を果たしていきたい。

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