昔先輩に連れられてキャバクラに行った。いわゆる場末のキャバクラで、言葉を選ばず言うなら「安っぽい」女の子と、安い酒を割高で飲み馬鹿話をするような店だ。酒豪のその先輩はお目当ての子がいて、お酒も入り楽しそうだ。私は初めて訪れる店、あまり好きではない酒を飲みながら、女の子と適当に話をしつつ、おっぱいを眺めていた。そこで先輩についていた女の子Aちゃんが「この人たちお医者さんなんだよ、すごいよねー」とお世辞を言う。私についていたおっぱいちゃんがきょとんとする。リアクションが薄い。おいおい、キャバ嬢ならお世辞ですごーいというところだろと思っっていると、Aちゃんが、めっちゃ頭いいんだよーとお世辞を続ける。そこでやっとおっぱいちゃんが口を開く。
「へーすごーい。私なんて九九もできないもん」
いくらなんでもそんなことがあるのだろうか。九九ができないとキャバクラの給料をごまかされても気がつけないではないか。コンビニで買い物するときの金額だってわからないではないか。俄然おっぱいちゃんに興味がわいて指名して聞いてみた。なぜ九九がわからないのか。きくと彼女は母子家庭らしい。母は仕事をしたりしなかったりしていて、祖母に育てられていた時期もあったようだ。小学校低学年の時期にはすでに授業についていけておらず授業中はずっとお絵描きをしていた。中学は不登校に近く、成人した彼氏の家にいることが多かったそう。高校生の間は援助交際に励み、その辺から親には会っていないと。今は彼氏の家に住み(最近付き合いだしたそうだ)、キャバクラに通っていると。
いかにも馬鹿っぽい感じの子だったが、知的障害があるようには見えなかった。どこでどう矯正していれば九九ができる、最低限の漢字が読める人生になっただろうか。若さを失い水商売が厳しくなった時、彼女はどう生きていくのだろうか。おっぱいが大きいだけでなんとかしていけるのだろうか。
「生活保護受給者」「内縁関係の夫婦」「ヤクザ」「犯罪者」など医者になって初めて接したという属性の人は多い。患者としてこなければきっと関係することのなかった人たちだ。「医者になって初めて世の中の半分は偏差値50以下と実感した」という医師もいる。
おっぱいちゃんのように小学校低学年ですでに勉強ができない場合の解決策は思いつかない。
「塾なしで東大や医学部」「家は貧乏だったから必死に勉強して高学歴」などよく聞く話だ。大体、親のせいにするのは甘えだとか、自分の努力次第でなんとかなるなどの話が続く。そういう問題以前の層もいることがわかった。
学歴が以前ほど有用でなくなっているが、それでも一定の価値は保っている。確かに勉強はスポーツや芸術、商売などよりは努力でなんとかなる範囲が大きい。一応の受験の成功を得られた自分は、若いころは自分の力、努力の結果と思っていたが、運が大きかったのかもしれない。
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