私の患者の9割は高齢者で、6割は後期高齢者だ。病院に来る患者は圧倒的に高齢者が多い。内科はどこも似たようなものではないか。
①元々元気に畑仕事と孫の世話を生きがいにしていたおばあちゃんが尿路感染症で入院してくる。抗菌薬と輸液で1週間で治って帰る。「先生ありがとう、また孫と楽しく過ごすね」となれば、患者もハッピー、寝たきりになったりせず、医療費的にもOK、大好きなばあちゃんが元気になり孫もハッピー。これはよい例だ。
②一番診療でエネルギーを使っている肺癌の患者だとどうだろう。じいちゃんがなんか腰が痛くて病院にいくと、たまたま肺癌が見つかる。気管支鏡検査、PET/CT、MRIとたくさんの検査を受ける。どうも腰が痛かったのは肺癌の骨転移らしい。化学療法だ。プラチナ製剤と免疫チェックポイント阻害薬の併用でいく。1か月で3桁万円の医療費だ。患者は高額医療制度で数万円の負担だ。副作用に苦しみながら、抗がん剤を続けていく。癌が小さくなったり大きくなったりしながら2次治療、3次治療と続けていく・・・。これが65歳ならどうか、83歳ならどうか。StageⅣの肺癌を治療しなければ平均寿命は数か月だ。化学療法をすると当然期待寿命は延びる。その人の寿命のために数千万円の医療費がかかる。スーパーレスポンダーと言える位薬が効けばまだよいが、そんな人は数%だ。
③酒とタバコでCOPD、アルコール性肝硬変の患者が肺炎になってしまった。呼吸不全も伴っている。入院して抗菌薬やらステロイドやらを行って一応の改善を得る。だがADLは落ちている。家族からも敬遠されており、「家に帰ってこられては困る」と言われる。さあ、施設や慢性期病院を探すわけだが、これでまた医療費がかかってしまう。100%ではないが、酒やたばこは自己責任の要素もなくはない。
どれも普通に内科医をやっていると日常的に遭遇する例だ。いずれの場合も淡々と治療する。はっきり言って「この患者はこのまま治療せず逝った方が幸せなのではないか」と思う症例もある。しかし患者側からの治療拒否がなければ治療する以外の選択肢は医師にはない。国民皆保険は限界に近付いている。湯水のごとくお金を使う制度が持続するはずはないと感じざるを得ない。
高齢者医療っていいことなのだろうか。はっきりいって、これはいいことではないなあと感じることも多い。医療費のこともそうだし、患者自身、患者家族のことを考えても、「この治療はこの世界の幸福の総量を増やしていないな」と思ってしまうのだ。医師は素敵な仕事だ、医師になりなさい、医師はいいぞと言われて育った。両親はじめ周囲の希望にそって、自分の意思でその選択をした。こんな疑問を持つとは、実際に主治医になるまで思ってもみなかった。
私はどういう形であれ、保険診療に従事するだろうし、それが崩壊してほしくないと思っている。こうした疑問を持ったまま続けていくしかないのだろう。どんな仕事の人もそうなのだろうか。
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