Xで高齢者の延命処置の是非や、高齢者の自己負担額増額が叫ばれている。おそらく大多数の医者は、少なくとも私やその周囲の医者は世論と一致した意見を持っている。寝たきり、認知症、疎通不能の患者に外から栄養や薬や水分を流し込むことには反対だし、高齢者の自己負担を上げずして現状の医療体制の維持は不可能だ。もっと言えば、外国人への生活保護受給や生活保護受給者の医療費無償も甚だ疑問である。「医者や医療機関が儲けすぎだ、だから延命をするな」という論調がおかしいと思っているだけで、一医者としても一国民としても「食べられなくなったら寿命」だと思っているし「少なくともお金がある高齢者は自分の医療費をもう少し負担してくださいよ」と思っている。ネット上にみられる意見も大多数は同様だ。
一方で実際の診療ではどうか。80歳を超えた患者に対して高額の抗癌剤や手術、最近だとTAVIを希望する患者や家族がなんと多いことか。「父は元気です。肺癌なら抗癌剤をやってください」と9割の家族が希望する。「父は元気でした。胃ろうを作って栄養をつければまた元気になるはずです」とあまりに甘い考えを話しだす。ネット上ではほとんどの意見は食べられなくなったら寿命だろと叫ばれているのに、実際の患者たちはそのネット上の意見と著しく乖離しているのだ。加齢その他で食べられなくなった患者の選択肢は主に3つ。
①胃ろう、あるいは中心静脈栄養で栄養と水分をとる方法。今は純粋な加齢や老化で胃ろうをつくるケースはさすがに減っている。ここ十年で老衰と診断した患者に胃瘻造設をしたことは私はない。中心静脈は感染や血栓、自己抜去のリスクはあるが、栄養としての寿命はざっくり1年程度だ。
②末梢点滴。いわゆる普通の点滴だ。中心静脈ほど副作用はないが、栄養としての寿命は大体1-2か月。最長で末梢点滴のみで3か月生きた人はみたことがある。
③何もしない。昨今ネットで推奨されている意見はこれだ。純粋な飲まず食わずで外から補給しないのであれば1‐2週間の寿命である。
上記は文体は変えるがほぼ同様の説明を患者家族にする。さて、私は内科医であるので、上記のお話を過去数百人にしてきた。その決定者は大体患者の子どもあるいは配偶者だ。患者本人の場合も稀にある。複数いる場合は相談して決める。配偶者と子が相談して決めるなどだ。③を希望した患者は数えるほどだ。多く見積もっても3%ほどだろうか。①と②は大体1:1くらい。①は胃ろうではなく中心静脈栄養だ。私は中心静脈や胃ろうのデメリットをかなり詳しく話すので末梢点滴が少し割合として多いかもしれない。「何もしないのは忍びないから」と話す家族が多い。場合によっては「患者にその選択をした自分が周りにどうみられるか」という世間体も関わっているだろう。現実に出てくる意見と実際の現場はここまで乖離するのである。
99%の医師は寝たきり高齢者を点滴や抑制、人工呼吸器を使って延命などしたくないのだ。選ぶのはいつも患者とその身内である。
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