大学一年の夏休み、約15年前の話だ。医学部の夏の大会(通称東西体、西医体)も終わり、純粋な夏休みだ。週に数時間家庭教師のバイトをする以外はせっせと麻雀とスロットに明け暮れていた。このころからフリー麻雀でも勝ち始め、パチスロのハイエナも覚え始めた。しかし、まだ19歳の自分は小金を持つと使ってしまう。分不相応なブランド服を買ってみたり、キャバクラにいってみたりと今にして思えば本当に無駄なお金を使っていた。「また勝てばいいや」と思っていたが、ギャンブルもそんなに甘いものではない。日や週の収支はかなり運に左右されるのだ。バイト代の振り込みの日まであと2日、
残金が30円ほどしかなくなってしまった。
ちなみに対人ギャンブルにおいて、負け金を払わないことは禁忌だ。払わずにごまかしたり逃げたりして、トータルで勝ち越している人は見たことがない。
夏休みでなければ友人に少し借りたり、飯ぐらい食わせてくれると思うのだが、仲のいい友人はみな帰省してしまっていた。他、家にあるものをリサイクルショップで売るとか、実家に帰るという選択肢もあったように今は思う。水道や電気は止まっていなかったので、水は飲めるが自販機やおにぎりは無理という状況だった。馴染みの雀荘でアウトスタートで麻雀をしながら飯を食う方法もあったのだが、それでは負けるとさらに苦しくなる。自分は「給料日まで絶食してみよう」と考えた。
できるだけケータイで無料でできる時間つぶしをして、長い時間寝る、そうして40時間後の給料が振り込まれたら好きなだけ吉野家でご飯を食べようと計画した。
24時間食事をしないということは普通の人はあまりないと思う。24時間を過ぎるころには腹が減りすぎて気持ちが悪い。低血糖なのか、トイレに立つとふらつく。挙句、貯金の方法やスロットの情報を調べて、この後は絶対こんなことはないようにしようと決意を新たにしたりしていた。
40時間後、約6万円の給料が振り込まれたことをコンビニで確認する。予定通り吉野家に向かう。牛丼大盛とライス大、サラダやらお新香やらつけて当時はまだ1000円いかなかったと思う。この食事を超える食事を今でも知らない。特にグルメというわけではないが、今はA5ランクだの廻らない寿司だのをそこそこ食べてみたりはした。しかし空腹時のコメと肉にはかなわないのだ。サッカーの試合でフル出場した後のスポーツドリンクの方が、100万円のロマネコンティよりもおいしいのだ(ロマネコンティなど飲んだことはないし、無料でもいらないが)。
この時の空腹の体験がお金を持とう、貯められるように決意したきっかけのひとつであったと思う。この後は年単位では資産が減ることはなく、医者になる前に麻雀とパチスロで数百万円の貯金は得られた。飢えたくない、妻や子どもを飢えさせたくないという気持ちが心のどこかにある。
一日二日なら死にはしないので、若い人は一度限界空腹チャレンジをしてみてもよいと思う。
コメント