限界田舎高齢化地域の病院で働いていた時の話

まだ研修が終わって間もないころ、ド田舎の病院に派遣された。自分は生まれも育ちも田舎の県、出身県の大学を卒業しているため、田舎にかなり耐性があった。給料はよいのだが、田舎過ぎて人気がない。県庁所在地から約1時間の、150床程度の病院に勤務することになった。

コンビニまでは車で10分、徒歩圏内にはスーパーと定食屋、ラーメン屋が一件あるくらい。かなり標高の高い山奥だ。

一人で主治医をやることもその病院が初めてだった。一応肩書は呼吸器内科だが、ほとんど一般内科、高齢診療科の仕事だった。

入院患者の平均年齢は90歳近かったと思う。誤嚥性肺炎、尿路感染症、転倒による骨折、心不全、脳梗塞、そして認知症・・・様々な病気の高齢者をみた。いくつか印象的だった症例を書いてみる。

・100歳男性一人暮らし

尿路感染症による体動困難で入院してきた。様子がおかしいと気づいた隣の住民による救急要請で入院した。車で約1時間のところに住む息子は「父は元気だから大丈夫だと思った」と言っていたが、100歳を超える親を一人暮らしさせてはいけないと思う。実際内服はできておらず、食事も食べたり食べなかったり、清潔は全く保てず生活は破綻していた。感染症の治療後は施設に入られた。

・90歳代男性 自殺企図

これも衝撃的だった。家賃も食費も払えなくなり、自殺を図ったらしい。経済的な困窮が原因だ。家族に自分が生きていることで負担をかける位ならと考えたそうだ。認知機能は保たれており、難聴はあるが疎通は可能な方だった。90歳代まで生きて自殺とは、なんとも考えさせられる話である。老人が多く自殺する国は亡ぶ。これを地でいっているのが今の日本かもしれない。精神科のある病院に転院いただいて、その後は知らない。1.2か月はお悔やみ欄に名前が載っていないことは確認していた。

・寂しいから受診する認知症の80歳代女性

今はこういった患者が救急外来にはあるあるだとよくわかるが、当時は衝撃だった。初日、二回目は真面目に採血やCTを取ったが、その後は簡単な問診のみで済ませるようになった。今ならバイタルサインに異常がなければお帰りいただいてくださいというかもしれない。

限界過疎の田舎は老人の比率が高い。世話をしきれず、生活が成り立たないのに一人暮らしや老々介護の状態だ。日本全体がそうなりつつあり、高齢化率はまださらに上昇する。ド田舎病院で働くとやばさがよくわかる。自宅で死んでいるところを発見されるといったケースが今後どんどん増えていくだろう。

毎日毎日あまり改善のない高齢者の診療をし、病状説明をし、一次救急をし、電話で起こされる・・・。仕事が終われば定食屋に毎日のように通い、食って寝る。労働環境はあまりよくなかったかもしれないが、ここで自分は「医者にしてもらった」という認識がすごく強い。力不足ながら、主治医を初めて務めたのだ。その病院、採算が取れず、市の赤字部門になっており、廃院になるかもしれないらしい。寂しいがしょうがない。

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