学歴と臨床力は必ずしも相関しない。東大卒で、ごく基本的な臨床知識が抜け落ちている残念な医師もいたし、最も尊敬する先生の一人は日本でも最も入りやすい私立医大を卒業されている(ただし主席に近い成績だったそうだ)。ただ平均点はやはり難関大学の方が高いだろう。私は受験生時代、少しでもレベルの高い医学部に入りたいとは思っていなかった。とにかくどこでもいいから医学部へと考えていた。可能なら国立大でとは考えていたが。
医学部に行けなかった人の話をしよう。高校の先輩Aさんだ。両親とも医師の医師家系だ。開業医のお家で、本人、両親とも医学部進学を希望していた。成績が悪く、現役時代は医学部など話にならない成績だった。私立、国立と医学部を複数受けたが全落ち。薬学部も落ちていた。一浪は大手予備校に通ったが、やはり成績は伸びず、再び全落ち。二浪目からは私立専願とし、科目を絞ったようだ(大体の私立は英数理科2つ)。私立医学部専門の予備校に通うこととした。年間の予備校費用が700万円程度かかるところだ。やはり合格せず、3.4.5浪と予備校を変え(同じくらいの学費のかかる私立医学部専門のところだ)、受験を続けた。6回目の浪人で諦め、全然関係のない大学に進学した。MARCHにも満たない偏差値の大学だ。
卒業し、現在は営業職として就職したらしい。独身だそうで、薄給で両親からの仕送りを受けていると。別に当人同士がよければいいのだが、30歳をこえた男がなんとも情けない話ではないか。
多浪は闇が深い。私の同級生や知人にも4浪や5浪のひともいるし、1.2浪は話題にも上らないくらいたくさんいる。その人たちは浪人が成功した人だ。「医学部に入るのは苦労したわー」とか、「自分は4浪だよ、やばくない?」と笑い話にできるくらいだ。医学部目指して多浪したA先輩の場合はタブーの話題になってしまっている。1.2年で諦めて別な道に行けばよいのかもしれないのだが、本人も親もあきらめがつかず、もう一年頑張れば受かるかもしれないとの思いが捨てきれないのだ。特に医学部受験は職業選択の意味合いが強く、医学部に行かなくては医者になれないし、医学部を出た人は99%医者をやっている。どこかで諦めて折り合いをつけるか、そうでなければ何が何でも受かるしかない。
多浪の末医学部入学を諦めた人も闇深いが、もっと闇が深いのは「医学部入学したのに卒業できず医者になれなかった人」だ。これも表には出にくいが、いる。
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